かなかな
・夕凪あまりにしづかなり豚のうめくさへ
・遠くから街あかりの、ねむくなつてねる
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 七月十九日[#「七月十九日」に二重傍線]

酒はよいかな、とてもよい眠りだつた、そしてよい眼覚めだつた。
兎肉とキヤベツと玉葱と胡瓜。
△犬ころ草がやたらにはびこる、その穂花が犬ころのやうな感じで好きな草だ、其中庵の三雑草として、冬から春はぺん/\草[#「ぺん/\草」に傍点]、春から夏は犬ころ草[#「犬ころ草」に傍点]、秋はお彼岸花[#「お彼岸花」に傍点]をあげなければなるまい、そのほかに、草苺、青萱、車前草、蒲公英。
毎日、茄子胡瓜でもあるまいから、そしてちやうど駄目になる燠があつたから、これでをはりの蕗を採つて来て佃煮にした、蕗のほろにがさには日本的老心[#「日本的老心」に傍点]といつたやうな味がある。
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・朝風の青草食みつつ馬は尾をふる
・日影ゆるゝは藪ふかく人のゐて
・炎天の機械がうごく人がうごく(アスフアルトプラント)
    □
 ひらいてゆれてゐる鬼百合のほこり
・朝からはだかで雑草の花
 糸瓜さいて垣からのぞく
 殺された蚊でぞんぶんに血を吸うた蚊で
・風が吹きとほすまへもうしろも青葉
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 七月廿日[#「七月廿日」に二重傍線] 土用入。

快い朝明けだつたが、洋燈のホヤをこわして不快になつた、ホヤそのものはヒビがはいつてゐたぐらいだからちつとも惜しくはないけれども、それをこわすやうな自分を好かないのである、もつとくはしくいへば、こわす意志なくして物をこわすやうな、不注意な、落着のない心持が嫌なのである。
夏草にまじつて、こゝそこに咲きみだれてゐる鬼百合はまつたく炎天の花[#「炎天の花」に傍点]といひたい矜持をかゞやかしてゐる。
露草がぽつちりと咲いてゐる、これはまたしほらしい。
晩飯はうどんですました、澄太さんのおみやげ。
ヒビのいつたホヤだつたけれどこわれて困つた、新らしいホヤを買ふ銭がない、詮方なしに今夜は燈火なしで闇中思索だつた!
何とつゝましい私の近来の生活だらう。
夜が明けて起き、日が暮れて寝る、朝食六時、十二時昼食、夕食六時、すべてが正確で平静である。
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   ※[#丸中黒、1−3−26]酒に関する覚書(一)
酒は目的意識的に飲んではならない、酔は自然
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