「老の涙」に傍点]! その涙は辛かつたらう!
蕗を煮る、いい香気だ、青紫蘇のにほひもいい。
樹明君を学校に訪ねて、胡瓜と玉葱とを貰うて戻る。
先日、伊佐町で知り合ひになつた禅海坊がひよつこりと訪ねてきた、此度は泊らないで対談二時間ばかりで帰つていつた、行乞米一升ばかりくれた、私は財布の底をはたいて五銭あげた。
夕の白い風を身心に感じた[#「夕の白い風を身心に感じた」に傍点]。
敬治君が戻つてくる、樹明君が酒と下物とを持参した、やつぱり酒はうまい、二君がそれ/″\帰つた後で、自分で自分の酔態を笑つたことである。
近来、酒に弱くなつた、酔ひやすくなつた、それがホントウだらう。
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・雑草に風がある夜明けの水をくむ
・蛙が鳴きつつ蛇に呑まれてしまつた
・日照雨、ぴよんぴよん赤蛙
・あすは来るといふ雨の蕗を煮てをく(澄太さんに)
・てふてふなかよく花がなんぼでも
・てふてふとんで筍みつけた
・晴れわたり蓮の葉のあたらしい色
 青葉へ錫杖の音を見送る(禅海坊に)
・あるきまはつてふたゝびこゝへ桐の花(改作再録)
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 七月二日[#「七月二日」に二重傍線
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