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今日の行程七里、そして所得は、――
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銭四十三銭に米八合。
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伊佐で、春田禅海といふ真言宗の行乞相[#「相」に「マヽ」の注記]と話し合ふ機会を得た、彼は地方の行乞僧としては珍らしく教養もあり品格もある人間だ、しきりにいつしよに在家宿泊を勧めるのを断つて、私は安宿におちついた、宿は豊後屋といふ、田舎町に於ける木賃宿の代表的なものだつた、家の中が取り散らしてあるところ、おかみさんが妻権母権を発揮してゐるところ、彼女はまさに山の神[#「山の神」に傍点]だ、しかし悪い宿ではなかつた、食事も寝具も相当だつた。
同宿は四国生れの老遍路さん、彼もまた何か複雑な事情を持つてゐるらしい、ルンペンは単純にして複雑な人間である。
その人のしんせつ、ふしんせつ、頭脳のよさわるさ、――道をたづねるとき、あまりによくわかる。
今日の支出は、――
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木賃二十五銭、飯米五合、たばこ四銭、端書六銭、酒代十銭、……
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伊佐は風流な町だ、山あり田あり、鶯が鳴き不如帰が鳴く、狼が出るかも知れない、沙漠のやうに石灰工場の粉が吹き流れ
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