た日また逢うてさびしい話
・糸瓜植ゑる、そこへ哀しい人間がきた
・考へつつ出来た御飯が生煮で
・梅雨晴ごし/\トラツクを洗ふ
 親も子も田を植ゑる孫も泥をふむ
・まづしいけれどもよい雨の糸瓜を植ゑる
・とんぼつるめばてふてふもつれるま昼のひかり
・煮る蕗のほろにがさにもおばあさんのおもかげ
・障子をたたくは夏の虫
・蠅もおちつかない二人のあいだ
・みんないんでしまうより虫が鳴きだした
・雑草のなか蛙のなかや明け暮れて
 昼も蚊がくるうつくしい蚊
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 六月廿四日[#「六月廿四日」に二重傍線]

晴、時々曇、晴れても曇つても日々好日である。
今日は山口を行乞しよう、六時出立、九時着、行乞三時間、三時帰庵、行乞相はよかつた、所得もわるくなかつた。
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  今日の所得
銭 四十五銭    米 一升三合
  今日の買物
煙草 四銭    焼酎 十一銭
端書 六銭    味噌 八銭
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途上で拾ひあげた句七つ。――
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・ふりかへる柿の葉のひらり
・アスフアルトもをんなくさい朝の風
・叱られる馬で痩せこけた馬で梅雨ふる
・はれたりふつたり青田となつた
 梅の実も落ちたまゝお客がない
・梅雨晴の大きい家が建つ
    □
・山頭火は其中庵にふくろうがうたふ
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△秘密[#「秘密」に傍点]を持たないやすらかさ、身心かくすところなくして光あまねし、浮世夢の如く塵に似たり、その夢を諦らめその塵を究めるのが人生である。
△食ふや食はずでも(正確にいへば、飲むや飲まずでも)山頭火にはやつぱり其中庵がいちばんよろしいことを今日もしみ/″\痛感した。
△捨てる事と拾ふ事[#「捨てる事と拾ふ事」に傍点]とは、その心構へに於て同一事である。
△しづかに燃えるもの[#「しづかに燃えるもの」に傍点]――その生命――その感動がなければ芸術は(宗教も科学も哲学も)、光らない、俳人よ、先づ自己を省みよ。
△日が暮れたら寝る、夜が明けたら起きる、食べたくなつたら食べる、歩きたくなつたら歩く、――さういふ生活へ私は入りつゝある、それは無理のない、余裕のある、任運自在の生活である。
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・この花を見つけた蝶の白い風
・陽が落ちるそよ風の青い葉が落ちる
・ゆふ風いそがしい蜘蛛のいとなみが
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