なる明るい雨ふる
 晴れると開く花で
・梅雨空へ伸びたいだけ伸びてゐる筍
・降つたり照つたり何事もなくて暮れ
   追加一句
・日が長い家から家へ留守ばかり(行乞)
 窓へ竹の子竹となつて(追加)
[#ここで字下げ終わり]

 六月廿九日[#「六月廿九日」に二重傍線]

今朝は一粒の米もないから、そして味噌は残つてゐたから、それだけ味噌汁にして吸ふ、実は裏から筍二本!
夜明けの蛙の唄はよろしい。
黴には閉口、もつとも梅雨と黴とは離れられないが。
断食――たゞしくは絶食、私の今日の場合では――それもよからう、よからうよ。
葉が落ちる、柿の葉はばさり[#「ばさり」に傍点]――昔の人は婆娑[#「婆娑」に傍点]と書いたがその通り。
虻には困る、蚋にも。
日が照れば、何とうつくしいトカゲの色ごろも!
虫の声はいゝ、コウロギはまだをさなく、キリギリスはいゝ。
曇、行乞は今日も駄目。
適意――自適――この言葉にふくむニユアンスが、すなはち、私のニユアンスだ、――かういふ生活もないことはない。
娘さんがうたふ、梅をもいでゐる、その梅の実を一升買ふ。
昼飯は五厘銅貨を豆腐に代へて、それですます。
△豆腐の味は水のそれとおなじ、冷暖自知、いひがたし。
野の花はどれもうつくしい、をどりこ草を活ける、露草がもう咲いてゐた。
敬治君、約束の如く来庵、予感の如く樹明君も来庵、よい酒をのんだ、うまい、うまい。
樹明君早く帰る、敬治君と私とは街へ出て、米を買ひ、ビールを飲んで戻つて寝た、めでたし、めでたし、ほんにめでたやなあ!
夜ふけて飯を炊いて食べる。――
螢がとぶ、とばない螢がこゝそこ。
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・てふてふひらひらおなかがすいた
・けふは水ばかりのむ風のふく
 わたしの胡瓜の花へもてふてふ
 花にもあいたかてふてふもつれつつ
・障子ひらけば竹に雀の前景がある
・むしあつく蟻は獲物をだいてゐる
・ひとりでたべるとうがらしがからい
・萱の穂も風が畳をふきぬける
・どなた元[#「た元」に「マヽ」の注記]気で夏畑の人や虫や
・ひらくより蝶が花のうへ
 ……………(これは酔線なり、今日の)
[#ここで字下げ終わり]

 六月三十日[#「六月三十日」に二重傍線]

ほとんど徹夜した、敬治君はよく眠つてゐる。
曇、すこし朝焼、多少の風。
昨夜はやつぱり飲みすぎだつた、私は女難を知らないけれど
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