寝床に戻つて、安心して寝たのである!
庵はよいかな、さみしいけれどしづかだ、まづしくてもやすらかである。
夕方樹明来、お土産の雲丹――それが最小の一罎であることを許してくれたまへ――をおかずにして御飯をあげる、それから出かける、君が意気投合したといふ、そして私をよく知つてゐるといふ、新任校長Kさんを訪ねる、生憎差支があつて話にも、むろん酒にもならない、そこでSカフヱーへ、酔うて窟へ。――
よくなかつた、小脱線だつたけれど、久振のワヤだつたけれど、やつぱりよくなかつた。
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・ひさ/″\もどれば筍によき/\
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 六月十二日[#「六月十二日」に二重傍線]

朝寝した、樹明君が昨夜の動静を聞きに来た。
夾竹桃がもう咲いてゐる、南国の夏の花だ。
夜は庵で、私の酒をちよんびり飲んだ(樹明君といつしよに)、おだやかな酒だつた、さみしい酒だつた。
雷鳴、驟雨、梅雨らしい天候だつた。

 六月十三日[#「六月十三日」に二重傍線]

晴、今年は誰もがいふやうにカラツユかも知れない。
畑の手入。
苦もなく句もない、ノンキな一日だつた。
筍、螢、蛙。……
樹明君
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