つもの岩国屋へ泊る、可もなく不可もないといふところ、遠慮のないのが何よりである。
よう寝られた。

 六月十一日[#「六月十一日」に二重傍線]

すつかり夏景色夏心地だ、一刻も早く帰庵したい、そしてわがまゝ[#「わがまゝ」に傍点]きまゝなひとりになりたい。
長府まで電車、長府から小郡まで汽車、やれやれといふ気分だつた。……
八幡で四有三君、小城さん、下関で地橙孫君に逢へなかつたのは残念だつた。
――別事なし――出て歩いても、戻つて来てもこんな気がする。
――やつぱりひとりがよろしい――こんな句が出来る自分を再発見する。
――生死去来は生死去来に任す――どうやらこゝまで達したやうである。
[#改ページ]

 六月十一日[#「六月十一日」に二重傍線] 入梅。

三時帰庵した、歩けば二日の行程を汽車は二時間で運んでくれた(こゝで改めて、近代文化のありがたさ、金銭のありがたさを痛感した)。
私はぐつたりと疲れてゐた、帰るなり寝た。
△雑草、雑草、雑草に埋れた気分に浸つて。
飲みすぎたからでもあらう、年のせいでもあらう、暑いためでもあらう、――とにかく私は労れてゐた、そして何はなくとも、私は私の
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