日」に二重傍線]
朝のうち行橋行乞、行乞相は当然よくなかつた。
小倉までよい道連れ――中年の商人――を得て助かつた、行程五里。
惣参居はおだやかな家庭である、お嬢さんが三味線の稽古をしてゐた、此一事にも惣参居士の心ばえがしのばれる。
二人で湯屋へ行く、湯の空色が気に入つた。
いつものやうに酒を十分いたゞく、お布施もいたゞく、御馳走はなかつたが、温情があまつた。
泊れといはれたが、お断りして安宿に泊つた、三角屋といつて、相客が多くてうるさかつたが、悪い宿ではなかつた。
今夜は飲みすぎた、酔ひすぎた。
小倉はさすがに昔からの城下町だけあつて、とゝなうておちついてゐる。
[#ここから2字下げ]
・かげは楠の若葉で寝ころぶ
・橋の下のすゞしさやいつかねむつてゐた
わかれきて峠となればふりかへり
・風のてふてふのゆくへを見おくる
仲哀洞道
登りつめてトンネルの風
落穂ひろうては鮮人のをとこをなご
・こゝろむなしく旅の煤ふる
[#ここで字下げ終わり]
六月十日[#「六月十日」に二重傍線]
今日も暑い、とても行乞なんか出来ない、電車で門司へ、なつかしい海峡をしたしい下関へ渡る、い
前へ
次へ
全16ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング