日」に二重傍線]

朝のうち行橋行乞、行乞相は当然よくなかつた。
小倉までよい道連れ――中年の商人――を得て助かつた、行程五里。
惣参居はおだやかな家庭である、お嬢さんが三味線の稽古をしてゐた、此一事にも惣参居士の心ばえがしのばれる。
二人で湯屋へ行く、湯の空色が気に入つた。
いつものやうに酒を十分いたゞく、お布施もいたゞく、御馳走はなかつたが、温情があまつた。
泊れといはれたが、お断りして安宿に泊つた、三角屋といつて、相客が多くてうるさかつたが、悪い宿ではなかつた。
今夜は飲みすぎた、酔ひすぎた。
小倉はさすがに昔からの城下町だけあつて、とゝなうておちついてゐる。
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・かげは楠の若葉で寝ころぶ
・橋の下のすゞしさやいつかねむつてゐた
 わかれきて峠となればふりかへり
・風のてふてふのゆくへを見おくる
   仲哀洞道
 登りつめてトンネルの風
 落穂ひろうては鮮人のをとこをなご
・こゝろむなしく旅の煤ふる
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 六月十日[#「六月十日」に二重傍線]

今日も暑い、とても行乞なんか出来ない、電車で門司へ、なつかしい海峡をしたしい下関へ渡る、い
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