のぼつた、二人でしんみりと話しつゞける、葉ざくらがそよいでくれる。
彼の近状をこゝで聞き知つたのは意外だつた、彼が卒業して就職してゐるとはうれしい、幸あれ、――父でなくなつた父の情である。
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・青葉へ無智な顔をさらして女
 ぽつきり折れてそよいでゐる竹で
・こゝから路は松風の一すぢ
 養老院の松風のよろしさ
・ともかくも麦はうれてゐる地平
 牛といつしよに寝て遊ぶ青い草
   緑平居
 葉ざくらとなつてまた逢つた
 ひさ/″\逢つてさくらんぼ
・がつちりと花を葉を持つて泰山木
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 六月八日[#「六月八日」に二重傍線]

名残惜しい別れ、緑平老よ、あんたのあたゝかさはやがてわたしのあたゝかさとなつてゐる。
晴れて暑い、行程六里、身心不調、疲労困憊、やうやくにして行橋の糀屋といふ木賃宿に泊つたが、こゝもよい宿だつた。
アルコールの力を借りて、ぐつすりと睡ることができた、そのアルコールは緑平老のなさけ。
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  木屋瀬行乞
米弐合に銭弐拾銭
  行橋行乞
米四合に銭四十七銭
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 六月九日[#「六月九
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