、――そして酒、酒。
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  押売の押売
これは鏡子君の話、君の門柱には、物貰、押売謝絶の札がうつてゐ[#「ゐ」に「マヽ」の注記]る、あれは或る日或る男がきて、無断でうちつけて、さて十銭ですといつたのださうな、――これこそ押売を排する押売だらう!
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 六月七日[#「六月七日」に二重傍線]

曇、終夜、障子がガタ/\鳴つてゐたことを覚えてゐる、あれだけ飲んでもこれだけ真面目だ、喜んでいゝかどうかはわからないが。
出勤前の星城子君来訪、幸雄さんはそれよりも早く見舞つてくれてゐる。
しみ/″\友情を感じる、道としての句作の力をひし/\感じる。
八幡は労働都市だけあつて、たべもの店が多くて安い、そこで私もサケとビールとシヨウチユウとのカクテルを飲んだ。
いそいで街を離れた、黒崎から左へ曲つてホツとした、人間的臭気の濃厚には堪へきれない私となつてゐた。
遠賀川の青草はよい、遊んでる牛もよい。
笠がやぶれた(緑平老の眼につくほど)。
香春岳は旅人の心をひきつける。
途中、木屋瀬を行乞する、五時前にはもう葉ざくらの緑平居に着いた。
月がボタ山のあなたから
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