遠く近く
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入浴して心気颯爽。
樹明君が胡瓜と着換とを持つて来庵、学校宿直を庵宿直にふりかへたといふ、飯がないから、といふよりも米がないから、F家へいつて五合借りる、醤油がないから酢だけで胡瓜なますをこしらへる、それでも二人でおいしく食べて、蚊帳の中でしんみり話した。
△新聞を配達して来ない、電燈料が払へなくて電燈をとりあげられたやうに、新聞代もたまつたので新聞もとりあげられたらしい、電燈の場合よりも、よりさみしい場合だ。
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   改作二句
・月も水底に旅空がある
・まこと雨ふる筍のんびりと
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 六月十六日[#「六月十六日」に二重傍線][#「六月十六日」はママ]

晴、ちつとも梅雨らしくない、梅雨は梅雨らしければよいのに。
宿直した樹明君が帰つて行く、私は湯田行乞に出かける。
百足、蛇、蜂、蛞蝓、蝶、蚊、虻、蟻、そして人間!
胡瓜、胡瓜、胡瓜だつた、うますぎる、やすすぎる!
朝の道はよい、上郷の踏切番小屋から乞ひはじめる、田植がなつかしく眺められる、それはすでに年中行事の一つとしての趣味をなくしてゐるが、やはり日本
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