ゐるコクトオ詩抄
本日の所得
米 一升一合
銭 五十六銭
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フクロウはうたふ、ボロキテホウコウ!
六月五日[#「六月五日」に二重傍線]
朝、黎々火君と散歩する、長府は気品のある地である、さすがに士族町である、朝早く、または月の夜逍遙遊するにふさはしい、しづかで、しんみりしてゐて、おちついた気分になる。
覚苑寺、功山寺、忌宮、等々のあたりをそゞろあるきする、青葉若葉、水色水声、あざやかでなつかしい。
心づくしの御馳走を遠慮なくよばれる、ひきとめられるのをふりきつてお暇した。
行乞米を下さいといつてお布施を下さる、写真をとつてもらふ、端書、巻煙草、電車切符を頂戴する、――何から何までありがたい。
黎々火居は家も人もみんなよかつた。
今日は陰暦の端午、柏餅、笹巻餅を味つた、草餅のかをり、それは遠い少年のかをり、伝統日本のかをりだ。
長府から下関へ電車、門司へ船、そしてまた電車でまつしぐらに戸畑へ。
入雲洞居はなつかしい、入雲洞君の飾らない厚意が身にしみる、酒はもとよりいはずもがな。
食後、市街を漫歩する、戸畑市の輪郭だけは解つたから、明日は行乞しようと思ふ。
昨夜も今夜も絹夜具、私にはもつたいないけれど、わざとだまつて寝させていたゞく。
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朝の山が朝の水に
・松が三本、国分寺跡といふ芋畑
水音の山門をくゞる水音
汐風つよくボートが塗りかへられる
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六月六日[#「六月六日」に二重傍線]
病院出勤の入雲洞君といつしよに出発。
風雨が強くなつて行乞どころぢやない、一杯機嫌で八幡へ急いだ。
星城子居に星城子君はゐなかつた。――
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さくらの木ばかりあんたはゐない
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幸雄さんを訪ねる、私の好きな青年俳人である、こゝでもまた父君母君が酒をすゝめられる。
同道して鏡子居を驚かす、鏡子君はオナゴヤの主人であるがおもしろい人である、酒、ビール、サイダー、蕎麦。……
同業者井上さんのところでまた御馳走になる、鯛のあらひは格別おいしかつた、こゝで星城子君にあへたのはうれしかつた。
鏡子、幸雄、星城子、私の四人連で、電車に乗つて支那料理屋へいつた、チヤンチユウ、サントウカとなつてしまつて、宿屋へ送りこまれた。
風、風、人、人、煙、煙――私には山村がよい、庵がよい
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