つてゐるのに驚かされた、あやめが咲いてゐた、棗が若葉を出してゐた。
樹明君のニホヒ[#「ニホヒ」に傍線]は残つてゐたが、姿は見えなかつた(日暦が今日になつてゐたから来庵はタシカ[#「タシカ」に傍線]だ)。
塵がういてゐた、蜘蛛の囲が張りまはされてゐた、その他に別状なし、変化がないといふことはさみしくないことはない。
自分には自分の寝床がいちばんよろしい、ヤレ/\ヤレ/\といふ気持だ。
飯を炊いたら半熟! これはさみしい事実である。
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・さみしさ、半熟飯《ナカゴメ》となつたか
・たんぽゝちらんばかりへもどつてきた
・南天のしづくが蕗の葉の音
[#ここで字下げ終わり]

 五月二十日[#「五月二十日」に二重傍線]

曇、晴れさうだ、ゆつくりと朝寝。
一週間のとりかたづけをする。
のんびりと食べたり、考へたり、寝たり、歩いたり。
買物に出て、俄雨に降りこめられた、焼酎一杯の贅沢。
樹明君に帰庵の挨拶をする、早速来庵、酒と下物とを持つて。
久しぶりの会飲、うれしかつた、送つて学校まで。
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 晴れるより雲雀はうたふ道のなつかしや
・ぬれるだけぬれてゆく
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