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七月十七日
晴、小月町行乞、往復九里は暑苦しかつたけれど、道べりの花がうつくしかつた、うまい水をいくども飲んだ、行乞はやつぱり私にふさはしい行だと思つた。
行乞所得はよくなかつたが、句の収穫はわるくなかつた。――
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・ぴつたり身につけおべんたうあたゝかい
・朝の水にそうてまがる
・すゞしく蛇が朝のながれをよこぎつた
・禁札の文字にべつたり青蛙
・このみちや合歓の咲きつゞき
・石をまつり水のわくところ
・つきあたつて蔦がからまる石仏
・いそいでもどるかなかなかなかな
・暮れてなほ田草とるかなかな
・山路暮れのこる水を飲み
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一銭のありがたさ、それは解りすぎるほど解つてゐる、体験として、――しかも万銭を捨てゝ惜まない私はどうしたのだらう!
なぜだか、けふは亡友I君の事がしきりにおもひだされた、彼は私の最初の心友だつた、彼をおもひだすときは、いつも彼の句と彼の歌とをおもひだす、それは、――
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□おしよせてくだけて波のさむさかな
我れん[#「我れん」に「マヽ」の注記]ちさう籠るに耳は眼はいらじ
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