た、――光風霽月だ。
これで今年は三本の歯がなくなつた訳である、惜しいとは思はないが、何となくはかない気持だ。
くちなしの花を活ける、花の色も香も好きである、野の貴公子といつた感じがある。
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・ほつくりぬけた歯を投げる夕闇
・何だかなつかしうなるくちなしさいて
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 七月七日

雨、空は暗いが私自身は明るい、其中庵[#「其中庵」に傍点]が建ちつゝあるのだから。――
しかし今日も行乞が出来ないので困る、手も足も出ない、まつたくハガキ一枚もだせない。
時々、どしやぶり、よう降るなあ!
昨日も今日も、そして明日も恐らくは酒なし日。
どこの家庭を見ても、何よりも亭主の暴君ぶりと妻君の無理解とが眼につく、そしてそれよりも、もつと嫌なのは子供のうるさいことである。
歯痛がやんだら手足のところ/″\が痛みだした、一痛去つてまた一痛、それが人生だ!
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・くもりおもたくおのれの体臭
・けさはあめの花いちりん
・畦豆も伸びあがる青田風
・雨の山越え苗もらひに来た
・青田青田へ鯉児を放つ
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 七月八日

雨、少しづ
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