む、近々また三本ほろ/\ぬけさうだ。
聞くともなしに隣室の高話し[#「隣室の高話し」に傍点]を聞く、在郷の老人連である、耕作について、今の若い者が無智で不熱心で、理屈ばかりいつて実際を知らないことを話しつゞけてゐる、彼等の話題としてはふさはしい。
[#ここから2字下げ]
・朝の烏賊のうつくしくならべられ(魚売)
・どうやら晴れさうな青柿しづか
・旅もをはりの、歯がみなうごく
 胡瓜こり/\かみしめてゐる
・松へざくろの咲きのこる曇り
 梅雨寒い蚤は音たてゝ死んだ
・くもり憂欝の髯を剃る
    □
  改作一句
・そゝくさ別れて山の青葉へ橋を渡る
    □
 見なほすやぬけた歯をしみ/″\と
 ほつくりぬけた歯で年とつた
 投げた歯の音もしない木下闇
 これが私の歯であつた一片
    □
・釣られて目玉まで食べられちやつた
[#ここで字下げ終わり]
例の歯をいぢくつてゐるうちに、ひよいとぬけてしまつた、何となくがつかりとした気持[#「がつかりとした気持」に傍点]である、さみしいといはうか、おかしいといはうか、何ともいへない感じだ。
△物、心、真実、表現、――芸術、句。
二日かゝつて
前へ 次へ
全131ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング