む、近々また三本ほろ/\ぬけさうだ。
聞くともなしに隣室の高話し[#「隣室の高話し」に傍点]を聞く、在郷の老人連である、耕作について、今の若い者が無智で不熱心で、理屈ばかりいつて実際を知らないことを話しつゞけてゐる、彼等の話題としてはふさはしい。
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・朝の烏賊のうつくしくならべられ(魚売)
・どうやら晴れさうな青柿しづか
・旅もをはりの、歯がみなうごく
胡瓜こり/\かみしめてゐる
・松へざくろの咲きのこる曇り
梅雨寒い蚤は音たてゝ死んだ
・くもり憂欝の髯を剃る
□
改作一句
・そゝくさ別れて山の青葉へ橋を渡る
□
見なほすやぬけた歯をしみ/″\と
ほつくりぬけた歯で年とつた
投げた歯の音もしない木下闇
これが私の歯であつた一片
□
・釣られて目玉まで食べられちやつた
[#ここで字下げ終わり]
例の歯をいぢくつてゐるうちに、ひよいとぬけてしまつた、何となくがつかりとした気持[#「がつかりとした気持」に傍点]である、さみしいといはうか、おかしいといはうか、何ともいへない感じだ。
△物、心、真実、表現、――芸術、句。
二日かゝつて
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