、近来あんまり濁つてゐた。
清澄[#「清澄」に傍点]、寂静[#「寂静」に傍点]、枯淡[#「枯淡」に傍点]、さういふ世界が、東洋人乃至日本人の、つゐの棲家ではあるまいか(私のやうな人間には殊に)。
柿、栗、蕗、筍、雑木、雑草、杜鵑、河鹿、蜩、等々々。
いづれも閑寂の味はひ[#「閑寂の味はひ」に傍点]である。
さみしい夜が、お隣の蓄音器によつて賑つた、唐人お吉、琵琶歌、そして浪花節だ、やつぱりおけさ節が一等よかつた。
六月十六日 同前。
降りみ降らずみ、寝たり起きたり。
予期しないゲルトが少しばかり手に入つた、酒を買ふたり、頭を剃つたり、胡瓜もみをこしらへたり、いやはや忙しい事だつた、嬉しい事だつた。
土地借入について保證人になつて貰ふべく、森野老人を訪ねる、即座に快諾して下さつた。
森野老人に感謝すると同時に、木村幸雄さんに感謝しなければならない。
今夜、はじめて温泉饅頭を食べた、うまい、そしてたかい。
御飯とお香々、――ありがたし、ありがたし。
銭といふものの便利を感じすぎるほど感じた、私は金銀[#「金銀」に傍点]そのものを、その他の物[#「物」に傍点]以上に有難いとは思はない、
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