ば少いが、多いとおもへば多くないこともない、とにかく疲れた、坂の悪路では汗をしぼつた、何といふ弱い肉体だらうと思つた、自分で自分に苦笑を禁じえないやうな場面もあつた。
五時過ぎ、車力を返して残品を持つて戻ると、もう樹明兄がきてゐて、せつせと手伝つてゐる、何といふ深切だらう。
私がこゝに結庵し入庵することが出来たのは、樹明兄のおかげである、私の入庵を喜んでゐるのは、私よりもむしろ彼だ、彼は私に対して純真温厚無比である。
だいぶ更けてから別れた、ぐつすり眠つた、心のやすけさと境のしづけさとが融けあつたのだ。
昭和七年九月廿日其中庵主となる[#「昭和七年九月廿日其中庵主となる」に傍点]、――この事実は大満洲国承認よりも私には重大事実である。



底本:「山頭火全集 第四巻」春陽堂書店
   1986(昭和61)年8月5日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「騷」と「騒」の混在は底本通りにしました。
入力:さくらんぼ
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年3月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネ
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