く、生死の問題が去来する、……因縁時節はどうすることも出来ない、生死去来は生死去来だ、死ぬる時は死ぬる、助かる時は助かる。……
事実を活かす[#「事実を活かす」に傍点]、飛躍[#「飛躍」に傍点]よりも漸進[#「漸進」に傍点]、そして持続[#「持続」に傍点]。
快い苦しみ、苦しい快さ(今日一日の気分はかうだつた)。
夕方、樹明さんに招かれて、学校の宿直室で十一銭のお辨当をよばれる、特に鶏卵が二つ添へてある、飯盒を貰つて戻る、御飯蒸器では(飯釜を持たないから)どうも御飯の出来栄がよろしくないので。
ごろりと横になつて、襖の文字を読む、――一関越来二処三処、難関再来一関覚悟、――此家の主人が若うして不治の疾にとりつかれたとき書きつけたのださうな。
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いちじくの実や、やつとおちついた
・ゆふべは雨ふる蓮を掘る
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九月三日
今朝も早かつた、四大不調は不思議に快くなつた、昨夜、樹明さんからよばれたタマゴがきいたのかも知れない、何しろ、薬とか滋養物とかいふものがきゝすぎるほどきく肉体の持主だから。
夕立がきた、夕立を観ず[#「夕立を観ず」に傍点]、といつたやうな態度だつた。
午後、周二さん来訪、予期しないでもなかつた、間もなく敬治君も来訪、予期したやうに、そして樹明兄は間違なく来訪。
汽車辨当で飲んだ、冬村君もやつてきて、小郡に於ける最初の三八九会みたいだつた。
よい雨、よい酒、よい話、すべてがよかつた、しかし一人去り二人去り三人去つて、私はまた独りぼつちになつた、かういふ場合には私だつてやつぱり寂しい、いや人並以上に寂しいのだ、それをこらへて寝た、夢のよくなかつたのは当然である。
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・こばまれて去る石ころみちの暑いこと(川棚温泉留別二句の内)
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九月四日
雨、よう降りますね、風がないのは結構ですね。
午前は、樹明さん、敬治さん、冬村さんと四人連れで、其中庵の土地と家屋とを検分する、みんな喜ぶ、みんなの心がそのまゝ私の心に融け入る。……
午後はまた四人で飲む、そしてそれ/″\の方向へ別れた。
夕方から夕立がひどかつた、よかつた、痛快だつた。
さみしい葬式が通つた。
私はだん/\涙もろくなるやうだ(その癖、自分自身に対しては、より冷静になる)。
飯盒の飯はうまい、しかしこれは独
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