たのは毒薬草[#「毒薬草」に傍点]だつた、ウツグサとかいふのださうな、毒か薬か、毒即薬だ。
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 一人となればつくつくぼうし
    □
・若葉に若葉がかさなつた(酒壺洞第二世出生)
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残暑といふものを知つた、いや味つた。
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アキアツクケツアンノカネヲマツ
 (秋暑く結庵の金を待つ)緑平老へ電報
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夕方、S氏を訪ねる、これで三回も足を運んだのである、そして土地借入の保證を懇願したのである、そしてまた拒絶を戴いたのである、彼は世間慣れがしてゐるだけに、言葉も態度も堂に入つてゐる、かういふ人と対座対談してゐると、いかにも私といふ人間が、世間人として練れてゐないかゞよく解る、無理矢理に押しつける訳に行かないから、失望と反抗とを持つて戻つた。
夜、Kさんに前後左右の事情を話して、此場合何か便法はあるまいかと相談したけれど乗つてくれない(彼も亦、一種の変屈人である)。
茶碗酒を二三杯ひつかけて寝た。

 八月廿六日 川棚温泉、木下旅館。

秋高し、山桔梗二株活けた、女郎花一本と共に。
いよ/\決心した、私は文字通りに足元から鳥が立つやうに、川棚をひきあげるのだ、さうするより外ないから。……
形勢急転、疳癪破裂、即時出立、――といつたやうな語句しか使へない。
其中庵遂に流産、しかしそれは川棚に於ける其中庵の流産だ、庵居の地は川棚に限らない、人間至るところ山あり水あり、どこにでもあるのだ[#「どこにでもあるのだ」に傍点]、私の其中庵は[#「私の其中庵は」に傍点]!
ヒトモジ一把一銭、うまかつた、憂欝を和げてくれた、それは流転の香味のやうでもあつたが。
精霊とんぼがとんでゐる、彼等はまことに秋のお使である。
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・いつも一人で赤とんぼ
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今夜もう一夜だけ滞在することにする、湯にも酒にも、また人にも(彼氏に彼女に)名残を惜しまうとするのであるか。……

 八月廿七日 樹明居。

晴、残暑のきびしさ、退去のみじめさ。
百日の滞在が倦怠となつたゞけだ、生きることのむつかしさを今更のやうに教へられたゞけだ、世間といふものがどんなに意地悪いかを如実に見せつけられたゞけだつた、とにかく、事こゝに到つては万事休す、去る外ない。
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けふはおわか
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