つかせてくれる、昨日、学校の廊下で藤[#「藤」に「マヽ」の注記]椅子の上の昼寝もよかつたが、今日の、自分の寝床でのごろ寝もよかつた。
朝湯と昼寝と晩酌[#「朝湯と昼寝と晩酌」に傍点]とあれば人生百パアだ!
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・すゞしく自分の寝床で寝てゐる
・稲妻する夜どほし温泉《ユ》を掘つてゐる
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八月七日
まだ雨模様である、我儘な人間はぼつ/\不平をこぼしはじめた。
此宿の老主人が一句を示す。――
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蠅たゝきに蠅がとまる
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山頭火、先輩ぶつて曰く。――
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蠅たゝき、蠅がきてとまる
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しかし、作者の人生観といつたやうなものが意識的に現はれてゐて、危険な句ですね、類句もあるやうですね、しかし、作者としては面白い句ですね、云々。
動く、秋意動く(ルンペンは季節のうつりかはりに敏感である、春を冬を最も早く最も強く知るのは彼等だ)。
山に野に、萩、桔梗、撫子、もう女郎花、苅萱、名もない草の花。
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・秋草や、ふるさとちかうきて住めば
・子に食べさせてやる久しぶりの雨
・秋めいた雲の、ちぎれ雲の
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焼酎一杯あほつたせいか、下痢で弱つた、自業自得だ。
八月八日 川棚温泉、木下旅館。
立秋、雲のない大空から涼しい風がふきおろす。
秋立つ夜の月(七日の下弦)もよかつた。
五六日見ないうちに、棚の糸瓜がぐん/\伸んで、もうぶらさがつてゐる、糸瓜ういやつ、横着だぞ!
バラツク売家を見にゆく、其中庵にはよすぎるやうだが、安ければ一石二鳥だ。
今日はめづらしく一句もなかつた、それでよろしい。
八月九日
朝湯のきれいなのに驚かされた、澄んで、澄んで、そして溢れて、溢れてゐる、浴びること、飲むこと、喜ぶこと!
野を歩いて持つて帰つたのは、撫子と女郎花と刈萱。
夜、椽に茶卓を持ちだして、隣室のお客さんと一杯やる、客はうるさい、子供のやうに(後記)。
よいお天気だつた、よすぎるほどの。
あゝあゝうるさい、うるさい、こんなにしてまで私は庵居しなければならないのか、人はみんなさうだけれど。
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・炎天の電柱をたてようとする二三人
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独身者は、誰でもさうだが、旅から戻つてきた時、
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