いてゐる
朝風に竹のそよぐこと
青田かさなり池の朝雲うごく
・朝風の青柿おちてゐて一つ
おきるよりよい風のよい水をよばれた
S家即事
伯母の家はいまもちろ/\水がながれて
・水でもくんであげるほかない水をくみあげる
風ふくふるさとの橋がコンクリート
ふるさとのこゝにもそこにも家が建ち
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八月三日
風、雨、しみ/″\話す、のび/\と飲む、ゆう/\と読む(六年ぶりにたづねきた伯母の家、妹の家だ!)。
風にそよぐ青竹を切つて線香入をこしらへた、無格好だけれど、好個の記念品たるを失はない。
省みて疚しくない生活[#「省みて疚しくない生活」に傍点]、いひかへればウソのない生活、あたゝかく生きたい。
東京からまた子供がやつてきた、総勢六人、いや賑やかなこと、東京の子は朗らかで嬉しい、姉――彼等の祖母――が生きてゐたら、どんなに喜ぶだらう!
東京の子が青紫蘇や茗荷の子を摘んでくれた、おいしかつた。
風雨なので、そして引留められるので、墓参を明日に延ばして、さらに一夜の感興を加へた。
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・松もあんなに大きうなつて蝉しぐれ(勅使松)
・やつぱりおいしい水のおいしさ身にしみる
うれしい雨の紫蘇や胡麻や茄子や胡瓜や
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八月四日
曇、どうやら風雨もおさまつたので、朝早く一杯いたゞいて出立、露の路を急いで展墓(有富家、そして種田家)、石古祖墓地では私でも感慨無量の体だつた、何もかもなくなつたが、まだ墓石だけは残つてゐたのだ。
青い葉、黄ろい花をそなへて読経、おぼえず涙を落した、何年ぶりの涙だつたらうか!
それから天満宮へ参拝する、ちようど御誕辰祭だつた、天候険悪で人出がない、宮市はその名の示すやうにお天神様によつて存在してゐるのである、みんなこぼしてゐた。
酒垂公園へ登つて瀧のちろ/\水を飲む、三十年ぶりの味はひだつた(おかげで被布を大[#「大」に「マヽ」の注記]の枝にひつかけて裂いたが)。
故郷をよく知るものは故郷を離れた人ではあるまいか。
東路君を訪ねあてる、旧友親友ほどうれしいものはない、カフヱーで昼飯代りにビールをあほつた、夜は夜でおしろいくさい酒をしたゝか頂戴した、積る話が話しても話しても話しきれない。
三田君にちよつと面接、斉藤さんへは電話で挨拶、いろ/\くいちがつたり、こんがら
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