水瓜ごろりと垣の中
・虫のゆききのしみじみ生きてゐる
□
・朝の木にのぼつてゐる
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七月廿三日
土用らしい土用日和である、暑いことは暑いけれど、そこにわだかまり[#「わだかまり」に傍点]がないので気持がよい。
隣室のお客さん三人は私の同郷人だ、純粋なお国言葉をつかうてゐる、彼等と話しあつてゐると、何だか血縁のものに接してゐるやうな気がする(私としては今のところ、身上をあかしたくないから、同郷人であることが暴露しないやうに警戒しなければならない)。
当地には温泉情調といつたやうなものはあまりたゞようてゐない、むろん、私には入湯気分といつたやうなものはないが。
今日も私はいやしい私[#「いやしい私」に傍点]を見た、自分で自分をあはれむやうな境地は走過しなければならない。
子供はうるさいものだとしば/\思はせられる、此宿の子はちよろ/\児でちつとも油断がならない、お隣の子は兄弟妹姉そろうて泣虫だ、競争的に泣きわめいてゐる、子供といふものはうるさいよりも可愛いのだらうが、私には可愛いよりもうるさいのである。
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(山水経)[#「(山水経)」は底本では、俳句の上に横書き]
・のびのびてくさのつゆ
・つゆけくもせみのぬけがらや
・事がまとまらない夕蝉になかれ(此一句は事実感想そのまゝである)
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夕食後、M老人を訪ねて、土地借入證書に捺印を頼んだら、案外にも断られた、何とかかとか言訳は聞かされたけれど、然諾を重んじない彼氏の立場には同情すると同時に軽蔑しないではゐられなかつた、それにしても旅人のあはれさ、独り者のみじめさを今更のやうに痛感したことである。
これで造庵がまた頓挫した、仕方がない、私は腰を据えた、やつてみせる、やれるだけやる、やらずにはおかない。……
敬治さん、幸雄さんのたよりはほんとうにうれしかつたのに!
今日は暑かつた、華氏九十七度を数へた地方もあるといふ、しかし私はありがたいことには、樹木の多い部屋で寝ころんでゐられるのだから。
幸雄さんの供養で、焼酎を一杯ひつかける、饅頭を食べる、端書を十枚差出すことが出来た。
七月廿四日
今日も暑からう、すこし寝過した、昨夜の今朝で、何となく気分がすぐれない。
野の花を活けた、もう撫子が咲いてゐるが、あの花には原始日本的情趣[#「原
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