がやつてきて、ぼつり/\話しだした、やうやく私といふ人間が解つてきたので保證人にならう、土地借入、草庵建立、すべてを引受けて斡旋するといふのだ、晴、晴、晴れきつた。
豁然として天地玲瓏、――この語句が午後の私の気分をあらはしてゐる。
それにしても、私はこゝで改めて「彼」に感謝しないではゐられない、彼とは誰か、子であつて子でない彼、きつてもきれない血縁のつながりを持つ彼の事だ!
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・山路はや萩を咲かせてゐる
・ゆふべの鶏に餌をまいてやる父子《オヤコ》で
・明日は出かける天の川まうへ
[#ここで字下げ終わり]
夜ふけて、知友へ、いよ/\造庵着手の手紙を何通も書きつゞけてゐるうちに、何となく涙ぐましくなつた、ちようど先日、彼からの手紙を読んだ時のやうに、白髪のセンチメンタリストなどゝ冷笑したまふなよ。
とう/\今夜も徹夜してしまつた。

 七月五日

曇、后晴、例の風が吹くので、同時に不眠の疲労があるので、小月行乞を見合せて籠居。
きのふのゆふべの散歩で拾うてきた蔓梅一枝(ねぢうめともいふ)を壺の萩と※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]しかへたが、枝ぶり、葉のすがた、実のかたち、すべてが何ともいへないよさを持つてゐる、此木は冬になつて葉が落ち実がはじけた姿がよいのだが、かうした夏すがたもよかつた。
句集「鉢の子」がやつときた、うれしかつたが、うれしさといつしよに失望を感ぜずにはゐられなかつた、北朗兄にはすまないけれど、期待が大きかつたゞけそれだけ失望も大きかつた、装幀も組方も洗練が足りない、都会染みた田舎者[#「都会染みた田舎者」に傍点]! といつたやうな臭気を発散してゐる(誤植があるのは不快である)、第二句集はあざやかなものにしたい!
払うべきものを払へるだけ払つてしまつたので、また、文なしとなつちやつた、おばさんにたのんでアルコール一罎をマイナスで取り寄せて貰ふ、ぐい/\ひつかけて昼寝した。……
夜は宿の人々といつしよに飲んでしまつた、アルコールのきゝめはてきめん、ぐつすりと朝まで覚えなかつた。

 七月六日

雨、今日も行乞不能、ちよんびり小遣が欲しいな!
終日歯痛、歯がいたいと全身心がいたい、一本の歯が全身全心を支配するのである。
夕方、いたむ歯をいぢつてゐたら、ほろりとぬけた、そしていたみがぴたりととまつ
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