、東京から送金して貰つた、同時に彼女から嫌な手紙を受取つたのである。
二三日前からの寝冷がとう/\本物になつたらしい、発熱、倦怠、自棄――さういつた気持がきざしてくるのをどうしようもない。
小串へ出かける、月草と石ころとを拾うてきた、途中、老祖母の事が思ひだされて困つた、父と私と彼女と三人が本山まゐりした時の事が、……八鉢旅館の事、馬の水[#「馬の水」に傍点]の事。……
近来、妙な句ばかり出来る、私も老いぼれたのかも知れない、まだ老いぼれるには早すぎるが!
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・安宿のざくろたくさん花つけた
□
・六月六日、こゝにおちついた雨(追加)
蠅取紙
・大きな声で死ぬるほかない
鑿泉工事
・掘りさげる土の底からふきあがる
鮮人ルンペン
拾ふことの、生きることの、袋ふくれる
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六月廿八日 同前。
晴、時々曇る、終日不快、万象憂欝。
不眠が悪夢となつた、恐ろしい夢でなくて嫌な夢だから、かへつてやりきれない。
何もかも苦い、酒も飯も。
最後の晩餐[#「最後の晩餐」に傍点]! といふ気分で飲んだ、飲めるだけ飲んだ、ムチヤクチヤだ、しかもムチヤクチヤにはなりきれないのだ。
何といふみじめな人間だらうと自分を罵つた、――こんなにしてまで、私は庵居しなければならないのでせうか――と敬治君に泣言を書きそへた。
六月廿九日
晴、寝床からおきあがれない、悪夢を見つゞける外ない自分だつた。
寝てゐて、つく/″\思ふ、百姓といふものはよく働らくなあ、働らくことそのことが一切であるやうに働らいてゐる。
私は悔恨の念にたへなかつた。
六月卅日 同前。
曇、今日も門外不出、すこしは気軽い。
あさましい夢を見た(それは、ほんとうにあさましいものだつた、西洋婦人といつしよに宝石探検に出かけて、途中、彼女を犯したのだ!)。
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・かつと日が照り逢ひたうなつた
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私は、善良な悪人[#「善良な悪人」に傍点]に過ぎない。……
△ △ △ △
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自戒三条
一、自分に媚びるな
一、足らざるに足りてあれ
一、現実を活かせ
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いつもうまい[#「うまい」に傍点]酒を飲むべし、うまい酒は多くとも三合を超ゆるものにあらず、自他共に喜ぶなり。
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