つと抑へつけて、戻つて、寝たけれど。――
女房といふものは、たとへば、時計に似たところがある、安くても、見てくれはよくなくても、きちんとあつてをればよろしい、困るのは故障の多い品、時計屋をよろこばせて亭主は泣く、ヒチリケツパイ。
[#ここから2字下げ]
・夜あけの星がこまかい雨をこぼしてゐる
・鳴くかよこほろぎ私も眠れない
星空の土へ尿する
・並木はるかに厄日ちかい風を見せてゐる
秋晴れの音たてゝローラーがくる
□
・二百二十日の山草を刈る
□
・秋の水ひとすぢの道をくだる
すわればまだ咲いてゐるなでしこ
・かるかやへかるかやのゆれてゐる
ながれ掻くより澄むよりそこにしゞみ貝
・水草いちめん感じやすい浮標《ウキ》
□
月がある、あるけばあるく影の濃く
追加三句
おもたく昼の鐘なる
子を持たないオヤヂは朝から鳩ぽつぽ
・こほろぎよ、食べるものがなくなつた
[#ここで字下げ終わり]
いやな夢ばかり見てゐる。……
唖貝(煮ても煮えない貝)はさみしいかな。
根竹の切株を拾ふ、それはそのまゝ灰皿として役立つ。
[#ここから2字下げ]
・別れて月の道まつすぐ
[#ここで字下げ終わり]
九月十四日
晴、多少宿酔気味、しかし、つゝましい一日だつた。
身心が燃える[#「身心が燃える」に傍点](昨夜、脱線しなかつたせいかも知れない、脱線してもまた燃えるのであるが)、自分で自分を持てあます、どうしようもないから、椹野川へ飛び込んで泳ぎまはつた、よかつた、これでどうやらおちつけた。
菜葉二銭[#「菜葉二銭」に傍点]、半分は煮て食べ、半分は塩漬にした(私はあまり芋類豆類を好かない)。
漬物石の代りには、一升徳利に水を詰めたのがよろしい、軽重自在、ぴつたりしてゐる。
お祭の旗や提灯がちらほら[#「ちらほら」に傍点]見える。
あゝ、雑草のうつくしさ[#「雑草のうつくしさ」に傍点]よ、私は生のよろこびを感じる。
そこの柿の木にいつも油蝉がゐる、まいにち子供がきてはとる、とつてもとつても、いつもゐる、不思議な気がする。
いつもリコウでは困る、時々はバカになるべし(S君に)。
イヤならイヤぢやとハツキリいふべし、もうホレタハレタではない(彼女に)。
大きな乳房[#「大きな乳房」に傍点]だつた、いかにもうまさうに子が吸うてゐた、うらやましかつた、はて、私と
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