洞居。

九時の汽車で博多へ、すぐ市役所に酒君を訪ねたが、忙しいので、後刻を約して市街を行乞する。
今夜はよく飲んだ、自分でも呆れるほどだつた、しかし酔つたいきほひで書きまくつた、酒君はよく飲ませてもくれるけれど、よく書かせもする。
市は市のやうにハジキが多い、十軒に一軒、十人に一人ぐらゐしか戴けない、ありがたかつたのは、途上で、中年婦人から五銭白銅貨を一つ、田舎者らしい人から一銭銅貨を三枚喜捨せられた事だつた。
この矛盾をどうしよう、どうしようもないといつてはもう生きてゐられなくなつた、この旅で、私は身心共に一切を清算しなければならない、そして老慈師の垂誨のやうに、正直と横着[#「正直と横着」に傍点]とが自由自在に使へるやうにならなければならない。
あゝ酒、酒、酒、酒ゆえに生きても来たが、こんなにもなつた、酒は悪魔か仏か、毒か薬か。

 十二月廿九日[#「十二月廿九日」に二重傍線] 曇、時雨、四里、二日市、和多屋。

十時、電車通で別れる、昨夜飲み過ぎたので、何となく憂欝だ、どうせ行乞は出来さうもないから、電車をやめて歩く、俊和尚上洛中と聞いたので、冷水越えして緑平居へ向ふつもり、時
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