ダン令嬢が横柄にはじいた、そこで、私もわざと観音経読誦、悠然として憐笑してやつた。
例の鍋とり屋さんとまた同宿、徳須恵では女が安い話を聞かされた、一枚も出せば飲んで食つて、そして抱いて寝られるといふ、あなかしこ/\、それにつけても昨夜のキ印老人は罪のない事をいつた、彼は三十八万円の貯金があるといふ、その利子で遊ぶといふ、わはゝゝゝゝ。
今日は郵便局で五厘問答[#「五厘問答」に傍点]をやつた、五厘銅貨をとるとらないの問答である、理に於ては勝つたけれど情に於て敗けた、私はやつぱり弱い、お人好しだ。
唐房といふ浦町が唐津近在にある、そのかみの日支通商を思はせる地名ではないか。

 一月廿四日[#「一月廿四日」に二重傍線] 小春、発動汽船であちこち行乞、宿は同前。

早く起きる、何となく楽しい日だ、八時ポツポ船で名護屋へ渡る、すぐ名護城[#「護城」に「マヽ」の注記]趾へ登る、よかつた。
――遊覧地じみてゐないのがよい、石垣ばかり枯草ばかり松ばかり、外に何も残つてゐないのがよい、たゞ見る丘陵の起伏だ、そして一石一瓦こと/″\く太閤秀吉を思はせる、さすがに規模は太閤らしい、茶店――太閤茶屋――たゞ
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