されては勿体ないやうな気がする。
同宿の坊さん、籠屋のお内儀さん、週[#「週」に「マヽ」の注記]旋屋さん、女の浪速節語りさん、みんなとり/″\に人間味たつぷりだ。

 十二月廿五日[#「十二月廿五日」に二重傍線] 曇、雨、徒歩三里、久留米、三池屋(二五・中)

昨夜は雪だつた、山の雪がきら/\光つて旅人を寂しがらせる、思ひだしたやうに霙が降る。
気はすゝまないけれど十一時から一時まで行乞、それから、泥濘の中を久留米へ。
今夜の宿も悪くない、火鉢を囲んで与太話に興じる、痴話喧嘩やら酔つぱらひやら、いやはや賑やかな事だ。

 十二月廿六日[#「十二月廿六日」に二重傍線] 晴、徒歩六里、二日市、和多屋(二五・中)

気分も重く足も重い、ぼとり/\歩いて、こゝへ着いたのは夕暮だつた、今更のやうに身心の衰弱を感じる、仏罰人罰、誰を怨むでもない、自分の愚劣に泣け、泣け。
此宿もよい、宿には恵まれてゐるとでもいふのだらうか、一室一燈を一人で占めて、寝ても覚めても自由だ。
途中の行乞は辛かつた、時々憂欝になつた、こんなことでどうすると、自分で自分を叱るけれど、どうしようもない身心となつてしまつた。

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