の切株に腰をかけて一服やつてゐると、女のボテフリがきて『お魚はいりませんか』深切か皮肉か、とにかく旅中の一興だ。
在国寺といふ姓、大入《ダイニウ》といふ地名、そして村の共同風呂もおもしろい。
此宿は悪くないけれど、うるさいところがある、新宿だけにフトンが軽くて軟かで暖かだつた(一枚しかくれないが)。
いつぞや途上で話し合つた若い大黒さんと同宿になつた、世の中は広いやうでも狭い、またどこかで出くわすことだらう、彼には愛すべきものが残つてゐる、彼は浪花節屋《フシヤ》なのだ、同宿者の需めに応じて一席どなつた、芸題はジゴマのお清!
一年ぶりに頭を剃つてさつぱりした、坊主にはやつぱり坊主頭がよい、床屋のおかみさんが、ほんたうに久しぶりに頭を剃りました、あなたの頭は剃りよいといつてくれた。
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・波音の県界を跨ぐ
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落つればおなじ谷川の水、水の流れるまゝに流れたまへ、かしこ。

 一月十九日[#「一月十九日」に二重傍線] 曇、行程二里、唐津市、梅屋(三〇・中)

午前中は浜崎町行乞、午後は虹の松原を散歩した、領巾振山は見たゞけで沢山らしかつた、情熱の彼女
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