で、昔を思はせるものがあつた。
若い支那行商人、元気がよい、そして始末屋だ、きつと金を貯めるだらう(朝鮮人は日本人に似てゐて、酒を飲んだり喧嘩をしたりするが、支那人は決して無駄費ひしない、時に集つて団子を拵らへて食べ合ふ位だ)。
いかけやさん、とぎやさんと遅くまで話す、無駄話は悪くない(いかけやさん、とぎやさんで飲まないものはない)。
長崎では、家屋敷よりも墓の方が入質価値があるといふ、墓を流したものはないさうな、それだけ長崎人の信心を現はしてゐる。

 一月十五日[#「一月十五日」に二重傍線] 曇、上り下り七里、赤坂、末松屋(二五・中)

雷山千如寺拝登、九州西国二十九番の霊場。
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・山寺の山柿のうれたまゝ
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今日は近頃になく労れた、お山でお通夜を阻まれ、前原で宿を断はられ、とう/\こゝまで重い足を曳きずつて来た、来た甲斐はあつた、よい宿だつた、同宿者も好人物だつた、たとへ桶風呂でも湯もあつたし、賄も悪くなかつた、火鉢を囲んで雑談がはづんだ、モンキの話(猿)長虫の話(蛇)等、等の縁起話は面白かつた。
雷山の水もよかつたが、油山には及ばなか
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