る。
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をとことをんなとその影も踊る
サクラがさいてサクラがちつて踊子踊る
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蛙の踊、鷲の舞、さくら踊などが印象として残つた。

 三月廿五日[#「三月廿五日」に二重傍線] 晴、夜来の雨はどこへやら、いや道路のぬかるみへ!

今日も行乞しなければならない、食べなければならないから、飲まなければならないから、死なないから。……
同宿の活辯の失業人と話しこんでゐるうちにもう十一時近くなつてしまつた、急いで支度をして出かける、行乞相はよかつた、所得もよかつた、三時過ぎ戻つた。
例の塩風呂に浸つてから例の酒店で一杯やる、この店は安い、一合でも二合でも喜んで燗をしてくれる、下物は刺身五銭、天ぷらもも[#「も」に「マヽ」の注記]五銭、ぬた弐銭、湯豆腐弐銭、私のやうなノンベイでも三グワン握つて行くと、即身[#「身」に白三角傍点]成仏が出来る、ギヤアテイ、ギヤアテイ、ボーヂ、ソワカ、などゝ親しい友に書いてやつた。
九州西国第二十七番清岩寺へ拝登した、なか/\よいところである、堂宇をもつと荘厳し[#「厳し」に「マヽ」の注記]たらよからうと口惜しかつた。
夜は万歳大会を観た、どうも此頃どうかしたのかも知れない、見物気分がいやに濃厚になつてゐる、が、とにかく愉快だつた、人間は何も考へないで馬鹿笑ひする必要がある、時々はね。
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・ヒヨコ孵るより売られてしまつた
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 三月廿六日[#「三月廿六日」に二重傍線] 晴、いよ/\正真正銘の春だ、宿は同前。

いや/\ながら午前中行乞(そのくせ行乞相はよろしいのだが)、そして留置郵便をうけとる、緑平老からのたよりはしんじつ春のおとづれだつた、うれしくてかなしうなつた。
一風呂浴びて、一杯ひつかけて、そして一服やるのは何ともいへない、まさに現世極楽だ、極楽は東西南北、湯坪にあり、酒樽にあり、煙管にありだ!
空に飛行機、海に船、街は旗と人とでいつぱいだ。
午後は風が出てまた孤独の旅人をさびしがらせた。
季節は歩くによろしく乞ふにものうい頃となつた。
行乞流転に始終なく前後なし、ちゞめれば一歩となり、のばせば八万四千歩となる、万里一条鉄。
方々へハガキをとばせる、とんでゆけ、そしてとんでこい、そのカヘシが、なつかしい友の言葉が、温情かよ。
駅の待合室で偶然、九日を読
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