りきれない。
同時に、此地方は造酒屋の多いことも多い、したがつて酒は安い、我党の土地だ。
いつぞや福岡地方で同宿したことのある妙な男とまた同宿した、私を尊敬してくれるのは有難いけれど、何だ彼だと附き纒はれるのは迷惑だ、彼ぐらい増上慢になれば天下太平、現世極楽だらう。
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四ッ手網さむ/″\と引きあげてある
焼跡のしづかにも雪のふりつもる
・雪の法衣の重うなる(雪中行乞)
雪に祝出征旗押したてた
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生きるとは味ふことだ[#「生きるとは味ふことだ」に傍点]、酒は酒を味ふことによつて酒も生き人も生きる、しみ/″\飯を味ふことが飯をたべることだ、彼女を抱きしめて女が解るといふものだ。
二月廿九日[#「二月廿九日」に二重傍線] けふも雪と風だ、行程一里、廻里、橋口屋(投込五〇・上)
朝、裕徳院稲荷神社へ参拝、九州では宮地神社に次ぐ流行神だらう、鹿島から一里、自動車が間断なく通うてゐる、山を抱いて程よくまとまつた堂宇、石段、商売的雰囲気に包まれてゐるのはやむをえまいが、猿を飼うたり、諸鳥を檻に閉ぢこめてあるのは感心しない、但し放ち飼の鶏は悪くない、十一時から四時まで鹿島町行乞、自他共にいけないと感じこ[#「じこ」に「マヽ」の注記]とも二三あつた。
興教大師御誕生地御誕生院、また黄檗宗支所並明寺などがあつた。
この宿はほんたうによい、何よりもしんせつで、ていねいなのがうれしい、賄もよい、部屋もよい、夜具もよい、――しかも一室一燈一鉢一人だ。
心の友に、――我昔所造諸惑業、皆由無始貪瞋痴、従身口意之生、一切我今皆懺悔、こゝにまた私は懺悔文を書きつけます、雪が――雪のつめたさよりもそのあたゝかさが私を眼醒ましてくれました、私は今、身心を新たにして自他を省察してをります。……
不眠と感傷、その間には密接な関係がある、私は今夜もまた不眠で感傷に陥つた。
三月一日[#「三月一日」に二重傍線]
三月更生、新らしい第一歩を踏みだした。
午前は冬、午後は春、シケもどうやらおさまつたらしい、行程二里、高町、秀津、山口、等、等とよく行乞した、おかげで理髪して三杯いただいた。
同宿六人、同室は猿まはし、おもしろいね。
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・寒い寒い千人むすびをむすぶ(改作)
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此宿は山口屋、二五、中、可もなし、不
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