庵――惣三居士の面目。
雲水悠々として去来に任す、――さういふ境界に入りたい。
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雨なれば雨をあゆむ
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此一句(俳句のつもりではありません)を四有三さんの奥さんに呈す。
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・JOGK、ふるさとからちりはじめた
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此一句(俳句のつもり)を白船老に呈す。
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雨がふつてもほがらか
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此一句を俊和尚に呈す。
四月廿四日[#「四月廿四日」に二重傍線]
雨、春雨だ、しつぽりぬれる、或はしんみり飲める、そしてまた、ゆうぜん遊べる春雨だ、一杯二杯三杯、それはみな惣三居士の供養だ。
朝湯朝酒、申分なくて申分があるやうな心地がする、さてそれは何だらう。
読書、けふはすこし堅いものを読んだ。
昨夜はたしかに酔うた、酔うたからこそヱロ街を散歩したのだが、脱線しなかつた、脱線しないといふことはうれしいが、同時にかなしいことでもある(それは生活意力の減退を意味するから、私の場合に於ては)。
此宿はよかつた、よい宿へとびこんだものだと思つた、きれいで、しんせつで、何かと便利がよろしい。
同宿四人、老人は遊人だらう、若者は行商人、中年女は何だか要領をえない巡礼さん、最後の四十男はお稲荷さん、蹴込んで張物の狐をふりまはす営業、おもしろい人物で、おしやべりで、苦労人で辛抱人だ。
夕方、そこらを散歩する、芭蕉柳塚といふのがあつた、折からの天神祭で、式三番叟を何十年ぶりかで見た、今夜はきつと少年の日の夢を見るだらう!
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・晴れたり曇つたり籠の鳥
曇り日、珠数をつなぐ
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四月廿五日[#「四月廿五日」に二重傍線] 晴、行程七里、直方市外、藤田屋(二〇・上)
どうしても行乞気分になれないので、歩いて、たゞ歩いてこゝまで来た、遠賀川風景はよかつた、身心がくつろいだ。
風が強かつた、はじめて春蝉を聞いた、銀杏若葉が美しい、小倉警察署の建物はよろしい。
此宿はほんたうによい、すべての点に於て(最初、私を断つたほどそれほど客を撰択する)。
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風の中から呼びとめたは狂人だつた
・寝ころ□□はもう春蝉の二声三声
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四月廿六日[#「四月廿六日」に二重傍線] 曇后晴、市街行乞、宿は
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