間は妙なもので、酒を一杯飲ませて下さいとはいひにくいが、煙草一服貸して下さいとはいひやすい、餅を頂戴しませうとはいひやすけ[#「すけ」に「マヽ」の注記]れど、飯をよばれませうとはいひにくい、思ふに、自分の身に即きすぎた物、いひかへれば必要の度の強い物、誰もが持たなくてはならない物は強請しにくいらしい。
風呂敷といふものは何と便利なものだらう、大小自由だ、大きいものも小さいものも一枚で包める、とてもトランクやケースやバツグが及ばない、たゞモダーンではない。
食べたい時に食べ、寝たい時に寝る、私しやほんとに我がまゝ気まゝ。
偶然[#「偶然」に傍点]のない生活、当然[#「当然」に傍点]のみの生活、必然[#「必然」に傍点]の生活、「あるべき」が「あらずにはゐられない」となつた生活。
忙しい中の静けさ、貧しい中の安らかさ、といつたやうなものを、今日はしみ/″\感じたことである。
寥平さんのおかげで、炊事具少々、端書六十枚、其他こま/″\したものを買ふ、お歳暮を持つて千体仏へ行く、和尚さんもすぐれた魂で私を和げて下さつた。
あんまり気が沈むから二三杯ひつかける、そして人が懐かしうなつて、街をぶらつ
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