たうに有難いことだ)。

 二月三日[#「二月三日」に二重傍線] 曇、よく眠られた朝の快さ。

生きるも死ぬるも仏の心、ゆくもかへるも仏の心。
不思議な暖かさである、『寒の春』といふ造語が必要だ、気味の悪い暖かさでもある。
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・こゝに住みなれてヒビアカギレ
・つゝましう存らへてあたゝかい飯
・豆腐屋の笛で夕餉にする
 日の落ちる方へ尿してゐる
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馬酔木居を訪ねてビールの御馳走になる、私は至るところで、そしてあらゆる人から恵まれてゐる、それがうれしくもあればさびしくもある。
子供はお宝、オタカラ/\というてあやしてゐる。

 二月四日[#「二月四日」に二重傍線] 雨、節分、寒明け。

ひとりで、しづかで、きらくで。
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・ひとりはなれてぬかるみをふむ
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 二月五日[#「二月五日」に二重傍線] まだ降つてゐる、春雨のやうな、また五月雨のやうな。

毎日、うれしい手紙がくる。
雨風の一人、泥濘の一人、幸福の一人、寂静の一人だつた。
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・雨のおみくじも凶か
 凩、書きつゞけてゐる

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