寒[#(ン)]空、別れなければならない
 恋猫の声も別れか
 寒い星空の下で別れる
・重荷おもくて唄うたふ
・ひとりにはなりきれない空を見あげる
 あたゝかく店の鶯がもう啼いて
 よいお天気の山芋売かな
 畑は月夜の葉ぼたんに尿する
[#ここで字下げ終わり]
稀也さんに、元寛さんへも馬酔木さんへも木葉猿をげ[#「をげ」に「マヽ」の注記]る、そして稀也さんも私も酔ふた、酔うて別れて思ひ残すことなし、よい別れだつた。
裏のおばさんに『あたゝかいですね』といふと『ワクドウが水にはいつたから』と答へる、熊本の老人は誰でもさういふ、ワクドウ(蟇の方言である)が水にはいる(産卵のためである)、だから暖かいと理窟である、ワクドウが水に入つたから暖かいのでなくて、暖かいからワクドウが水に入るのだから、原因結果を取違へてゐるのだが、考へやうによつては、面白くないこともない、私たちはいつもしば/\かういふ錯誤をくりかへしつゝあるではないか。

 一月廿四日[#「一月廿四日」に二重傍線] うらゝかだつた、うらゝかでないのは私と彼女との仲だつた。

米の安さ、野菜の安さ、人間の生命も安くなつたらしい。

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