に「マヽ」の注記]る、お茶受としてはおきまりの漬物だが、菜漬がぐつさり添へてある、そして温泉には入り放題だ。
朝湯――殊に温泉――は何ともいへない心持だ、湯壺にぢと[#「ぢと」に「マヽ」の注記]してゐる時は無何有郷の遊び人だ、不可得、無所得、ぼうばくとしてナムカラタンノウトラヤヤ……。
今日は草鞋をはいた、白足袋の感じだけでも草鞋はいゝ、いはんや草鞋はつかれない、足についてくる(地下足袋にひきずられるとは反対に)、さく/\として歩む気持は何ともいへない。
歩いてゐて、ふと左手を見ると、高い山がなかば霧にかくれてゐる、疑ひもなく久住山だ、大船山高岳と重なつてゐる、そこのお爺さんに山の事を訊ねてゐると――彼は聾だつたから何が何だか解らなかつた――そのうちにもう霧がそこら一面を包んでしまつた。
家々に唐黍の実がずらりと並べ下げてあるのは、いかにも山国らしい、うれしい風景である(唐黍飯には閉口だけれど)。
道ゆく人々がみんな行きずりに、お早うといふ、学校生徒は只今々々といふ(今日は日曜だが、午後は只今帰りましたといふ)、これも山国らしい嬉しい情景の一つである(その癖、行乞の時は御免が割合に多い
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