つた(実は一杯やりたかつたのだが)、そこからまた少し下ると、一軒の茶店があつた、さつそく漬物で一杯やつた、その元気でどん/\下つて来た。
汽車賃五十銭は仕方なかつたが、『みのり』はたしかに贅沢だつた、しかしそれが今日は贅沢でなくなつた、それほど急いで山を楽しんだのである、山を前に悠然として一服、いや一杯やる気持は何ともいへない。
小野市といふ村町では、見事な菊を作つて陳列してゐる家が多かつた、菊はやつぱり日本の花、秋の花だと思つた。
山道が二つに分れてゐる、多分右がほんたうだらうとは直感したが、念のために確かめたいと思つて四方を見まはすけれど誰もゐない、たゞ大きな黒い牛が草を食んでゐる、そして時々不審さうに私を見る、私も牛を見る、私はあまり牛といふ動物を好かないが、その牛には好感が持てた、道を教へてくれ、牛よ。
行乞してゐると、人間の一言一行が、どんなに人間の心を動かすものであるかを痛感する、うれしい事でも、おもしろくない事でも。
此宿はよくないだらうと予期して泊つたのだが、予期を裏切つて悪くなかつた、何でも見かけにはよらないものだ。
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・休む外ない雨のひよろ/\
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