はこれだから困る、一人になりきれ、一人になりきれ。

 十月廿四日[#「十月廿四日」に二重傍線] 雨、滞在、休養、宿は勿論同前(上)

雨、風まで吹く、同宿者七人、みんな文なしだから空を仰いで嘆息してゐる、しかし元来のんき人種だから、火もない火鉢を囲んで四方八方の話に笑ひ興じる(たゞし例の釣好きのお遍路さんはお札くばりの爺さんから餌代五銭出して貰つて出かけた、そして沙魚三十尾ばかりの獲物を提げて得々として帰つて来た、私もその一二尾の御馳走になつた)。
長い退屈な一日だつた、無駄話は面白いけれど、それも続けると倦いてくる、――ヤキ宿で死んでいつた人の話はみんなをしんみりさせた、そしてめい/\の臨終の有様を心に描かせら[#「せら」に「マヽ」の注記]しい、鯉を盗んで、それをその所有者に食べさせた話はみんなを腹から笑はせた、旅籠に泊つて金が足らないでびく/\した話、雨に濡れながら門附けした話、テキヤとヘンロとの合同金儲けの話などもとりどりに興味ふかく聞くことが出来た。
晩酌には、同病相憐むといつた風で、尺八老に一杯おせつたいした、彼の笑顔は焼酎一合のお礼としては勿躰ないほどよかつた。
明日は晴
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