あつてまた通るのである、途中、三名《サンミヤウ》、岩崎、平郡《ヘグリ》といふ部落町を行乞して、やつと今日の入費だけ戴いた、明日は雨らしいが、明日は明日の事、まだ/\何とかなるだけの余裕はある。
此宿はボクチンでなくてリヨカンであるが、賄も部屋も弟たり難く兄たり難しといつたところ、ただ宿の事を訊ねたのが機縁となつて、信心深い老夫妻のお世話になることになつたのである、彼等の温情はよく解る。
今夜は酒場まで出かけて新酒を一杯やつたゞけ(一合十三銭は酒がよいよりも高すぎる)、酒といへば焼酎しか飲めなかつた地方、そのイモシヨウチユウの桎梏から逃れたと思つたら、こんどは新酒の誘惑だ、早くアルコール揚棄の境地に到達しなければ嘘だ。
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 行手けふも高い山が立つてゐる
 白犬と黒犬と連れて仲のよいこと
 山の水のうまさ虫はまだ鳴いてゐる
・父が掃けば母は焚いてゐる落葉
 蔦を這はせてさりげなく生きてゐるか
 駄菓子ちよつぴりながらつ[#「つ」に「マヽ」の注記]てゐる
 あるだけの酒はよばれて別れたが
・豊年のよろこびの唄もなし
・米とするまでは手にある稲を扱ぐ
 茄子を鰯に代へてみ
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