げ終わり]
単に句を整理するばかりぢやない、私は今、私の過去一切を清算しなければならなくなつてゐるのである、たゞ捨てゝも/\捨てきれないものに涙が流れるのである。
私もやうやく『行乞記』を書きだすことが出来るやうになつた。――
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私はまた旅に出た。――
所詮、乞食坊主以外の何物でもない私だつた、愚かな旅人として一生流転せずにはゐられない私だつた、浮草のやうに、あの岸からこの岸へ、みじめなやすらかさを享楽してゐる私をあはれみ且つよろこぶ。
水は流れる、雲は動いて止まない、風が吹けば木の葉が散る、魚ゆいて魚の如く、鳥とんで鳥に似たり、それでは、二本の足よ、歩けるだけ歩け、行けるところまで行け。
旅のあけくれ、かれに触れこれに触れて、うつりゆく心の影をありのまゝに写さう。
私の生涯の記録としてこの行乞記を作る。
………………
[#ここで字下げ終わり]
九月十五日[#「九月十五日」に二重傍線] 曇后晴、当地行乞、宿は同前。
けふはずゐぶんよく歩きまはつた、ぐつたり労れて帰つて来て一風呂浴びる、野菜売りのおばさんから貰つた茗荷を下物に名物の球磨焼酎を一杯ひつかける、熊
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