と思つたら、鼠を捕ることはなか/\うまいさうな、能ある猫は爪をかくす、なるほどさうかも知れない。

 十二月二日[#「十二月二日」に二重傍線] 曇、何をするでもなしに、次郎居滞在。

毎朝、朝酒だ、次郎さんの厚意をありがたく受けてゐる、次郎さんを無理に行商へ出す、私一人猫一匹、しづかなことである、夜は大根膾をこしらへて飲む、そして遅くまで話す。
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   次郎居即事
 朝の酒のあたゝかさが身ぬちをめぐる
 ひとりでゐて濃い茶をすゝる
 物思ふ膝の上で寝る猫
 寝てゐる猫の年とつてゐるかな
 猫も鳴いて主人の帰りを待つてゐる
 人声なつかしがる猫とをり
 猫もいつしよに欠伸するのか
 猫もさみしうて鳴いてからだすりよせる
 いつ戻つて来たか寝てゐる猫よ
 その樅の木したしう見あげては
・なつかしくもきたない顔で
 徹夜働らく響にさめて時雨
 家賃もまだ払つてない家の客となつて
・痒いところを掻く手があつた
 機械と共に働らく外なし
・機械まはれば私もまはる
・機械動かなくなり私も動かない
 人は動かない機械は動いてゐる
・今夜のカルモチンが動[#「動」に「マヽ」の注記
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