家があるその壁の蔦紅葉
 蓬むしれば昔なつかし
 水はたゝへてわが影うつる(水源地風景)
・をり/\羽ばたく水鳥の水(  〃  )
・水を前に墓一つ
 好きな山路でころりと寝る
・そよいでるその葉が赤い
 小皿、紫蘇の実のほのかなる(雲関亭即事)
・さみしい顔が更けてゐる
 風が冷い握手する
 竹植ゑてある日向の家
 まつたく裸木となりて立つ(雲関亭即事)
[#ここで字下げ終わり]

 十一月廿六日[#「十一月廿六日」に二重傍線] 晴、行程八里、半分は汽車、緑平居(うれしいといふ外なし)

ぐつすり寝てほつかり覚めた、いそがしく飲んで食べて、出勤する星城子さんと街道の分岐点で別れる、直方を経て糸田へ向ふのである、歩いてゐるうちに、だん/\憂欝になつて堪へきれないので、直方からは汽車で緑平居へ驀進した、そして夫妻の温かい雰囲気に包まれた。……
昧々居から緑平居までは歓待優遇の連続である、これでよいのだらうかといふ気がする、飲みすぎ饒舌りすぎる、遊びすぎる、他の世話になりすぎる、他の気分に交りすぎる、勿躰ないやうな、早[#「早」に「マヽ」の注記]敢ないやうな心持になつてゐる。
山のうつくし
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