は夏爐冬扇の如し、といふのがある、俳句は夏爐冬扇だ、夏爐冬扇であるが故に、冬爐夏扇として役立つのではあるまいか。
荷物の重さ、いひかへれば執着の重さを感じる、荷物は少くなつてゆかなければならないのに、だんだん多くなつてくる、捨てるよりも拾ふからである。
八幡よいとこ――第一印象は、上かんおさかなつき一合十銭の立看板だつた、そしてバラツク式長屋をめぐる煤煙だつた、そして友人の温かい雰囲気だつた。

 十一月廿五日[#「十一月廿五日」に二重傍線] 晴、河内水源地散歩、星城子居、雲関亭、四有三居。

ほがらかな晴れ、俊和尚と同行して警察署へ行く、朝酒はうまかつたが、それよりも人の情がうれしかつた、道場で小城氏に紹介される、氏も何処となく古武士の風格を具へてゐる、あの年配で剣道六段の教士であるとは珍らしい、外柔内剛、春のやさしさと秋のおごそかとを持つ人格者である、予期しなかつた面接のよろこびをよろこばずにはゐられなかつた、稽古の済むのを待つて、四人――小城氏と俊和尚と星城子君とそして私と――うち連れて中学校の裏へまはり、そこの草をしいて坐る、と俊和尚の袖から般若湯の一本が出る、殆んど私一人で飲
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