てない)を一丁食べて、それだけでこぢれた心がやわらいできた。
このあたりはまことに高原らしい風景である、霧島が悠然として晴れわたつた空へ盛りあがつてゐる、山のよさ、水のうまさ。
西洋人は山を征服[#「征服」に傍点]しようとするが、東洋人は山を観照[#「観照」に傍点]する、我々にとつては山は科学の対象でなくて芸術品である、若い人は若い力で山を踏破せよ、私はぢつと山を味ふのである。
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・かさなつて山のたかさの空ふかく
 霧島に見とれてゐれば赤とんぼ
 朝の山のしづかにも霧のよそほひ
 チヨツピリと駄菓子ならべて鳳仙花
 旅はさみしい新聞の匂ひかいでも
 山家明けてくる大粒の雨
 重荷おもかろ濃き影ひいて人も馬も
 朝焼け蜘蛛のいとなみのいそがしさ
・泣きわめく児に銭を握らし
 蒸し暑い日の盗人つかまへられてしまつた
 こんなにたくさん子を生んではだか
 死にそこなつて虫を聴いてゐる
[#ここで字下げ終わり]

 九月廿一日[#「九月廿一日」に二重傍線] 曇、雨、彼岸入、高崎新田、陳屋(四〇・上)

九時の汽車で高原へ、三時間行乞、そして一時の汽車で高崎新田へ、また三時
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