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・投げ出された肉体があざわらつてゐる
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寸鶏頭君、元寛君に、先日来方々から寄せ書をしたが、感情を害しやしなかつたか知ら、あまりに安易に、自己陶酔的に書き捨てゝ、先方の感情を無視してゐた、慙愧々々。
或る友に与へて、――
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私はいつまでも、また、どこまでも歩きつゞけるつもりで旅に出たが、思ひかへして、熊本の近在に文字通りの草庵を結ぶことに心を定めた、私は今、痛切に生存の矛盾、行乞の矛盾、句作の矛盾を感じてゐる、……私は今度といふ今度は、過去一切――精神的にも、物質的にも――を清算したい、いや、清算せずにはおかない、すべては過去を清算してからである、そこまでいつて、歩々到着が実現せられるのである、……自分自身で結んだ草庵ならば、あまり世間的交渉に煩はされないで、本来の愚を守ることが出来ると思ふ、……私は歩くに労[#「労」に「マヽ」の注記]れたといふよりも、生きるに労れたのではあるまいか、一歩は強く、そして一歩は弱く、前歩後歩のみだれるのをどうすることも出来ない。……
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 十二月三日[#「十二月三日」に二重傍線] 晴、一日対座懇談、次郎居滞在。

今日は第四十八回目の誕生日だつた、去年は別府附近で自祝したが、今年は次郎さんが鰯を買つて酒を出して下さつた、何と有難い因縁ではないか。
次郎さんは善良な、あまりに善良な人間だ、対座して話してゐるうちに、自分の不善良が恥づかしくなる、おのづから頭が下る――次郎さんに缺けたものは才と勇だ!
ポストへ行く途上、若い鮮人によびとめられた、きちんとした洋服姿でにこついてゐる、そしておもむろに、懐中時計を買はないかといふ、馬鹿な、今頃誰がそんな詐欺手段にのせられるものか、――しかし、彼が私を認めて、いかさま時計を買ふだけの金を持つてゐたと観破したのならば有難い、同時に、さういふイカサマにかへら[#「ら」に「マヽ」の注記]る外ない男として、或は一も二もなくさういふものを買ふほどの(世間知らずの!)男と思つたのならば有難くない。
夜は無論飲む、次郎さん酔うて何も彼も打ち明ける、私は有難く聴いた、何といふ真摯だらう。
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 雑巾がけしてる男の冬
 鰯さいても誕生日
・侮られて寒い日だ
 飛行機のうなりも寒い空
 話してる間へきて猫がうづくまる
 涙がこぼれさうな寒い顔で答へる
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 十二月四日[#「十二月四日」に二重傍線] 晴、行程六里、汽車でも六里、笹栗町、新屋(三〇・下)

冷たいと思つたら、霜が真白だ、霜消し酒をひつかけて別れる、引き留められるまゝに次郎居四泊はなんぼなんでも長すぎた。
十一時の汽車に乗る、乗車券まで買つて貰つてほんたうにすまないと思ふ、そればかりぢやない、今日は行乞なんかしないで、のんきに歩いて泊りなさいといつて、ドヤ銭とキス代まで頂戴した、――かういふ場合、私は私自身の矛盾を考へずにはゐられない、次郎さんよ、幸福であつて下さい、あんたはどんなに幸福であつても幸福すぎることはない、それだのに実際はどうだ、次郎さんは商売の調子がよくないのである、日々の生活も豊かでないのである。
飯塚へ着いたらもう十二時近かつた、濁酒一杯の元気で八木山峠を越える、そして七曲りの紅葉谷へ下りる(笹栗新四国八十八ヶ所、第三十四番の薬師堂)、このあたりの山と水とは悪くない。
途中、村の老人連の放蕩話は面白かつた、博多柳町で、仕切一円、一円六十銭といつたやうな昔がたり、また途上の狂女は嫌だつた、若いだけ、すつかり調子外れでないだけ気味悪かつた。
此宿はよくない、お客さんは私一人だ、気儘に読んだり書いたりをすることが出来たのは勿怪の幸だつたが。
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 別れの畳まで朝日さしこむ
 別れともない猫がもつれる
 また逢ふまでの霜をふみつゝ
 霜の消えないうちに立つ
・もういちど濃いお茶飲んで別れませう
 二三歩ついてきてさようなら
・ちつとも雲のない空仰ぎつゝ別れた
 廃坑の霜がぬくうとけてゆく
・みんな活きてゆく音たてゝゐる
・古い墓に新らしい墓のかゞやかさ
 朝日まぶしう枯山たかく
・いたづらに真昼の火が燃えてゐる
・曲つて旧道のしづけさをのぼる
 耕す下を掘つてるか
・これでも生活《くらし》のお経あげてゐるのか
 そこら音ある水をたづねる
 秋風の石を祀つて拝んでゐる(追加)
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さみしいなあ――ひとりは好きだけれど、ひとに[#「とに」に「マヽ」の注記]なるとやつぱりさみしい、わがまゝな人間、わがまゝな私であるわい。

 十二月五日[#「十二月五日」に二重傍線] 曇、時雨、行程三里、福岡市、句会、酒壺洞居。

お天気も悪いし、気分もよくないので、一路ま
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