砕けた瓦
(或る男の手帳から)
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)木端微塵《こっぱみじん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)べそ[#「べそ」に丸傍点]
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 私は此頃自から省みて『私は砕けた瓦だ』としみじみ感ぜざるをえないようになった。私は瓦であった、脆い瓦であった、自分から転げ落ちて砕けてしまう瓦であったのだ。
 玉砕ということがあるが、私は瓦砕だ。それも他から砕かれたのではなくて、自から砕いてしまったのだ。見よ、砕けて散った破片が白日に曝されてべそ[#「べそ」に丸傍点]を掻いている。
 既に砕けた瓦はこなごなに砕かれなければならない。木端微塵《こっぱみじん》砕き尽されなければならない。砕けた瓦が更に堅い瓦となるためには、一切の色彩を剥がれ、有らゆる外殻を破って、以前の粘土に帰らなければならない。そして他の新らしい粘土が加えられなければならない。

 家庭は牢獄だ、とは思わないが、家庭は沙漠である、と思わざるをえない。
 親は子の心を理解しない、子は親の心を理解しない。夫は妻を、妻は夫を理解しない。兄は弟を、
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