弟は兄を、そして、姉は妹を、妹は姉を理解しない。――理解していない親と子と夫と妻と兄弟と姉妹とが、同じ釜の飯を食い、同じ屋根の下に睡っているのだ。
彼等は理解しようと努めずして、理解することを恐れている。理解は多くの場合に於て、融合を生まずして離反を生むからだ。反き離れんとする心を骨肉によって結んだ集団! そこには邪推と不安と寂寥とがあるばかりだ。
泣きたい時に笑い、笑いたい時に泣くのが私の生活だ。泣きたい時に泣き、笑いたい時に笑うのが私の芸術である。
私は何故こんな下らない事ばかり書くのであろう。私が書く事はすべて、自分の耻晒しであり世上の物笑いである。それは私自身を傷づけるばかりではないか。
そう思わぬではない。こんなくだらない事はもう書くまいと思わぬではない。しかも私は書かずにはいられないのだ。書けば下らない事しか書けないのだ。あさましい心はあさましい事ばかり考える、荒んだ生活からは荒んだ思想しか生れないのだ。……もっと適切にいえば、私には世間の風評や一身の利害を無視しても、表現せずにはいられない欠陥と悔恨と苦痛とがあるのだ。
若し私が私の欠陥から脱却し得たならば―
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