のふる日はよい。しぐれする夜のなごやかさは物臭な私に粥を煮させる。

 風もわるくない。もう凩らしい風が吹いている。寝覚の一人をめぐって、風はどこから来てどこへ行くのか。さみしいといえば人間そのものがさみしいのだ。さみしがらせよとうたった詩人もあるではないか。私はさみしさがなくなることを求めない。むしろ、さみしいからこそ生きている、生きていられるのである。

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ふるさとはからたちの実となつてゐる
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 そのからたちの実に、私は私を観る。そして私の生活を考える。
 雨ふるふるさとはなつかしい。はだしであるいていると、蹠《あしうら》の感触が少年の夢をよびかえす。そこに白髪の感傷家がさまようているとは。――
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あめふるふるさとははだしであるく
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 最後に私は、川棚で出来た句『花いばら、ここの土とならうよ』の花いばらを茶の花におきかえなければならなくなったことを書き添えよう。そして、もう一句、最も新らしい一句を書き添えなければなるまい。
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住みなれて茶の花のひらいては散る
[#ここ
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